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東京地方裁判所 昭和45年(ワ)10717号 判決

原告

多田俊雄

被告

日本通運株式会社

ほか一名

第二 主文

一  被告両名は連帯して原告に対し金九一万六六九二円及びこれにつき昭和四五年一一月七日以降右完済に至るまで年五分の割合による金員を支払え。

二  その余の請求を棄却する。

三  訴訟費用は、これを一〇分し、その八を被告両名の負担とし、その余の二を原告の負担とする。

四  右第一項に限り仮に執行することができる。

第三 事実

一  請求の趣旨

被告両名は連帯して原告に対し金七〇六万四八七九円及びこれにつき訴状送達の翌日以降右完済に至るまで年五分の割合による金員を支払え。

訴訟費用は被告両名の負担とする。

仮執行の宣言を求める。

二  請求の趣旨に対する被告側の答弁

本訴請求を棄却する。

訴訟費用は原告の負担とする。

三  請求の原因

(一)  (事故の発生)

原告は次の交通事故により負傷した。

1  発生時 昭和四二年一〇月三〇日午後零時頃

2  発生地 新潟県刈羽郡小国町太郎丸一五一六番地先交差点

3  被告車 大型貨物自動車(新一い六五四五)

運転者 被告 浅井(当時二一才)

4  渡辺車 自動二輪車(カワサキ一二五。小国町〇六一五)

運転者 訴外渡辺一則(当時一六才)

5  被害者 原告(渡辺車の後部に同乗中)

6  態様 右両車が出合頭に衝突。

7  傷害の部位程度

(病名)

左脛骨複雑骨折、左膝関節内複雑骨折。

(治療)

<省略>

8  後遺症

左膝屈曲障害(最大屈曲八五度)。これは自賠法施行令別表等級第一二級に相当する。

(二)  (責任原因)

被告両名は次の理由により本件事故によつて生じた原告の損害を賠償する責任がある。

1  被告会社は被告車を自己のために運行の用に供するものとして自賠法三条による責任。

2  被告浅井は事故発生につき次のとおりの過失があつたから不法行為者本人として民法七〇九条による責任。

即ち被告浅井は被告車を運転して森光方面から法末方面へ向い直進するにあたり、左右の見通しの悪い本件事故発生地たる十字型の交通整理の行われていない交差点であつたにもかかわらず、一時停止又は徐行し、左右の道路の安全を確認してから通過すべき注意義務があるにもかかわらず、これを怠り、時速一五粁位で右交差点に進入した過失により、右方(即ち太郎丸方面)から上岩田方面に向け直進走行して来た渡辺車に被告車の前部を衝突させ、その衝撃で渡辺車に同乗中の原告を転倒せしめて本件事故を惹起せしめた。

(三)  (損害)

1  附添費 金二四万二〇〇〇円

入院期間二四二日間にわたり一日金一〇〇〇円宛の附添料の支払を求める。

2  休業損害 金一一万円

原告(昭和二年八月六日生)は本件事故のため、次の休業損害を蒙つた。

(勤務先) 訴外株式会社名塚組の常傭の土木労働者。

(平均日収) 金一五九八円

(賞与差損) 昭和四二年暮分金八万円及び昭和四三年八月分の減額分金三万円の計金一一万円。

3  逸失利益 金三七一万二八七九円

原告は前記後遺症により、次のとおり、将来得べかりし利益を喪失した。

(稼働可能年数) 二五年

(日毎の差額損) 金六三八円

即ち一般の人は日収金二五〇〇円なのに、原告は金一八六二円しか得られず、その差額を損失している。

(年五分の中間利息の控除) 一年毎にホフマン方式による。

4  慰藉料 金三〇〇万円

前記の諸事情のほか、家族への影響も甚大であることを考慮に入れれば、原告の精神的損害につき金三〇〇万円が相当と思料する。

(四)  (結論)

よつて被告両名に対し金七〇六万四八七九円及びこれにつき訴状送達の翌日以降右完済に至るまで民法所定の年五分の割合による遅延損害金の支払を求める。

四  被告の答弁

(一)  請求原因第(一)項中、7、8は争い、その余は認める。

(二)  同第(二)項中、被告会社が被告車の運行供用者であつたことは認めるけれども、「本件事故が被告浅井の交通安全義務を怠つた過失により発生した」旨の主張は否認。

(三)  同第(三)項は不知。

(四)  同第(四)項は争う。

五  被告の抗弁

(一)  過失相殺

本件事故発生地は森光方面から法末方面へ通ずる道路(幅員約四米)と太郎丸方面から上岩田方面に通ずる道路(幅員約四・四五米)とがほぼ直角に交差している、左右の見通しの悪い交差点である。

被告浅井は被告車を運転して森光方面から法末方面に向けて直進して本件交差点を通過するに際し、交差点の手前において一旦停止した後、時速一五粁位で交差点に直進走行したため、被告車の方が先に入つた。

他方訴外渡辺は太郎丸方面から上岩田方面に向け時速七〇粁位の高速度のまま、左右の見通しの悪い本件事故発生地たる交差点を直進通過しようとした一時停止ないしは徐行義務に違反した過失により本件事故を起した。

原告は訴外渡辺一則を自分の手足として利用し、会社の業務たる運転業務に従事させていたものであるから、訴外渡辺の過失は、過失相殺の関係では、原告自身の過失と同視すべきである。

即ち、原告は株式会社名塚組に雇傭された現場監督であつて、本件事故当時「楢沢部落付近の工事現場」と「増田小学校付近の工事現場」との二個所を担当していた。

そして楢沢の工事現場は訴外渡辺の自宅、及び原告の下宿先のある上岩田から約三〇〇米の距離にあり、訴外渡辺一則、原告とも自宅及び下宿先から徒歩で通うことができた。

また、増田の工事現場は、楢沢から約三粁位の距離にあり、楢沢からの、また楢沢への徒歩連絡は不可能であつた。

事故当時、訴外渡辺は名塚組にアルバイトとして雇傭され、主として楢沢の工事現場において土工として働いていた。

事故当日の朝、楢沢の工事現場において、訴外渡辺は原告から、「自分を増田の工事現場まで乗せて行つてくれ。」との命令を受けた。当日朝、渡辺は自宅から徒歩で楢沢の工事現場まで来ていたので、右命令を受けて、直ぐ自宅に帰り、渡辺車に乗つてそして、渡辺車の後部座席に原告を乗せ、増田の工事現場につき、土工の休憩小屋を建てる仕事をした後、正午頃昼食を食べに再び増田から楢沢へ向け出発し走行中、本件交通事故に遭遇したのである。

ところで原告は、前記の通り現場監督であり、現場における土工等に対する指図、指揮、監督の権限を有していた。従つて訴外渡辺もまた原告の指揮、監督の下にあり、その指示によつて作業をしていたのである。このような原告の指揮、監督下において訴外渡辺は、原告から前記命令を受け、その命令の通り、名塚組の業務の執行として、渡辺車の運転業務を遂行したものである。

結局、原告は、自分は運転免許を有しないので、運転免許を有する訴外渡辺を自分のいわば手足として利用し、これを運転業務に従事させたものであるから、訴外渡辺の前記の過失は過失相殺の関係においては原告自身の過失と全く同視すべきである。

そこで、原告及び訴外渡辺の前記過失を被告浅井の過失と比較してみると、前記の事実並びに証拠から判断して、前者の方が重いことは明らかである。

従つて少くとも六割以上の過失相殺がなされなければならない。

(東京地判昭和四二年五月二四日判例時報四八六号五九頁)。

(予備的主張)

原告は、本件事故当時、名塚組の現場監督であり、工事現場における指揮、監督権を有していたのであるから民法七一五条二項の代理監督者の地位にあつた。従つて、原告は、訴外渡辺の渡辺車運転業務の遂行に当り、これを監督すべき義務があつたのである。しかるに、原告は右監督すべき義務を怠り、その結果、訴外渡辺の前記過失により本件事故が惹起された。

よつて、仮に本件事故により、原告が何等かの損害を蒙つたとしても、その損害は、原告多田自身の代理監督者としての監督義務不履行に起因するといわなければならない。

原告多田の右過失と被告浅井の過失とを比較してみると、前者の方が重いことは明らかであるから、少くとも六割以上の過失相殺がなされなければならない。

(二)  損害の填補 計金一六二万円

1  任意弁済 金九三万一三六八円

(内訳)

(1) 治療費 金四六万六一九二円

(2) 附添人の布団代 金一九二〇円

(3) 慰藉料、休業損害 金四六万三二五六円

以上の金額につき、被告車と渡辺車との双方の自賠責保険より被告会社が加害者請求により回収ずみである。

2  被害者請求 金六八万八六三二円

原告は被告車と渡辺車の双方の自賠責保険より被害者請求で右の金額を受領している。

(内訳)

(1) 後遺症分 金六二万円

(2) その他 金六万八六三二円

六  抗弁に対する原告の答弁

(一)  過失相殺について

被告等は、「原告は本件事故当時、訴外渡辺を自分の手足とし利用し、会社の業務たる運転業務に従事させていた」旨主張されているが、これは事実を誤認したものである。

工事現場において、訴外渡辺等土工達を指図し、指揮監督の権限を有していたのは、訴外株式会社名塚組の専務取締役である訴外名塚一博であつて、原告ではなかつたのである。

原告は名塚一博の指揮のもとに臨時の土工を募集し、募集した臨時の土工に仕事のやり方を教える役目を有した常勤の一般土工にすぎなかつたのである。

名塚組が事故当時使用していた土工の多くは臨時のいわゆるアルバイトの土工であつたので、常勤で仕事になれている原告は、これら臨時の土工に仕事のやり方を教えてやつていたところから「監督」のように見られ、原告自身も対外的には「現場監督」と称したことはあるが、雇傭主である名塚組は、原告を一般土工として扱つており、他の土工に対する指揮、監督権を認めておらなかつたのである(甲二七号証、株式会社名塚組代表取締役名塚順二作成に係る証明書参照)。

従つて、原告は、訴外渡辺の使用主でないことは勿論、代理監督者でもなかつたのである。

よつて、仮に訴外渡辺が本件事故につき、過失があり、損害賠償の責に任じなければならぬとしても、これがために原告にも賠償責任ありということはない。

(二)  損害の填補について

1  被告側より任意弁済があつたことは認めるけれども、その数額は不知。

2  被害者請求で原告側が金六八万八六三二円を受領したことは認める。

第四 理由

一  (事故の発生)

請求原因第(一)項中7(傷害の部位程度)、8(後遺症)を除き、その余の事実は、当事者間に争いがない。

右7(傷害の部位程度)、8(後遺症)は、〔証拠略〕によれば、原告主張のとおりであることが認められる。なお被告側は〔証拠略〕(診断書)は、担当医師が一年以上も前に診断した際のカルテに基き作成されたものであるから、後遺症認定の証拠としては採用すべきでない」旨主張する。なるほど〔証拠略〕によれば、昭和四四年六月原告を診察した結果に基き、高橋一正医師が昭和四五年一〇月十二日付で診断書〔証拠略〕を発行しているけれども、原告に対する後遺症が昭和四三年八月末日の最終治療の段階から生涯回復しないものという見込の診断であつたため、これを前提にして昭和四五年一〇月一二日付の診断書(〔証拠略〕)を発行したことが認められる。従つて後遺症認定の証拠として採用した。

二  (責任原因、過失相殺)

(一)  被告会社が被告車の運用供用者であることは当事者間に争いがない。

(二)  次に過失につき検討する。

1  〔証拠略〕を総合すれば、次の事実を認め得る。

本件事故発生地は森光方面から法末方面へ通ずる幅員約四米弱の道路と太郎丸方面から上岩田方面へ通ずる幅員四米五〇糎弱の舗装された道路(県道)とがほぼ十字型に交差する、交通整理の行われていない交差点である。しかも角に人家があつて左右の見通しが悪い交差点であつた。被告浅井は被告車を運転して森光方面から法末方面に向けて直進するために右方の見通しの悪い本件交差点の手前で一時停止又は徐行すべきであつたにもかかわらず、これを怠り時速一五粁で直進走行せしめた過失により、被告車の前部で右方から直進走行して来た渡辺車に衝突せしめて本件事故を起した。他方、訴外渡辺一則は原告を後部に同乗せしめて渡辺車を太郎丸方面から上岩田方面に向け直進走行して本件交差点を通過するに当り左方に対する見通しが悪いにもかかわらず一時停止又は徐行しないまま時速三〇粁位で直進した過失により本件事故を惹起せしめた。原告が渡辺車に同乗するに至つた事情は次のとおりであつた。即ち、当時、原告は株式会社名塚組(いわゆる土建会社)の現場監督ないしは人夫頭として勤務し、「楢沢川の現場」と「増田の河川工事」との二カ所の現場につき監督的立場で人夫の指揮をとつていた。訴外渡辺は右名塚組の人夫として勤め、原告の支配下で稼働していた。たまたま原告は自動車の運転ができないことから、訴外渡辺が渡辺車を保有し日頃から運転していたので、訴外渡辺に増田の工事現場へ原告を同乗させて赴かさせた。そこでの仕事が一段落したので、中食をとるために楢沢の工事現場に戻るために、原告の指示の下に渡辺車に原告が同乗し、訴外渡辺が運転して楢沢の工事現場へ向けて運転走行中、本件事故となつた。

右認定事実によれば、本件事故は被告車と渡辺車との双方の過失の競合によつて発生したものというべく、かつ、監督者の指示で運転中の訴外渡辺の過失もあつて同乗の監督者たる原告が負傷したことによる本訴において、対被告車側との過失相殺としては、いわゆる渡辺車側(被害者側)に入れて斟酌するのを相当とする。そして損害賠償額算定にあたり斟酌すべき過失相殺割合としては原告側が二割、被告側が八割と認めるのを相当とする。

従つて被告会社は自賠法三条により、被告浅井は民法七〇九条により、両名連帯して本件事故によつて豪つた原告の総損害の八割相当額を賠償する責任がある。

三  (損害)

(一)  附添料 金六万円

〔証拠略〕を総合すれば、原告の負傷が大きく、入院当初一人で歩くこともできなかつたこともあつて、病院側の看護のみでは不十分のときもあつて、原告の妻などが附添看護にあたつたことを認め得る。しかし、その日数等を明確にし得る証拠はない。従つて、その病状からみて一日金一〇〇〇円宛の六〇日分を親族による附添料として認めるのを相当とする。

(二)  休業(賞与)損害 金六万円

〔証拠略〕によれば、事故後は、年間金七万円弱の賞与を右名塚組から得ていたところ、本件事故のために、昭和四二年末には賞与金額が支給されず、昭和四三年中には金一万円のみ支給されたことが認められる。

右認定事実によれば、必ずしも数額的に差損を明かにできる証拠はないけれども、控目にみて、賞与について金六万円の得べかりし利益の喪失があつたものと推認するのを相当とする。

(三)  逸失利益 金一〇〇万円

以上の各証拠によれば、原告は名塚組の現場監督ないしは人夫頭として名塚組に勤続して来ている昭和二年八月六日生の健康な男子であつたところ、本件事故のため前認定の後遺症により、昭和四三年九月一日に復職しているけれども日収で金二〇〇円程度の減収のまま今日に及んでいること、この後遺症が将来も存続してゆくこと、一カ月にほぼ二六日稼働出勤していること等が認められる。右認定事実によれば、次のとおり算出するのを相当とする。

1  昭和四三年九月一日以降昭和四五年一〇月末日(遅延損害金起算金の直前の日)までの二六カ月分として金十二万円(万未満切捨)を認めるのを相当とする。

200円×26日×26月=124,800円

2  昭和四五年十一月一日以降昭和四八年二月末日までの二八カ月分として金一四万円(万未満切捨)と算出される。即ちこの期間は選延損害金起算日の至近の時期から口頭弁論終結の直前の月までであつて、過去の分に相当する。

200円×26日×28月=145,600円

3  昭和四八年三月一日以降六三才までの二十二年間の分として金八二万円(万未満切捨)と算出される。年五分の中間利息の控除はライプニツツ方式による。

200円×26日×12月×13.163=821,371円

4  ところで右2、3は、それぞれ各時期の現価であるけれども、本判決で認容されるべき遅延損害金の起算日たる昭和四五年十一月七日までに遡つて右2、3の逸失利益を評価すると金八八万円と認めるのを相当とする。

5  結局右金八八万円と1の金十二万円との合計金一〇〇万円をもつて原告の後遺症による逸失利益と認めるのを相当とする。

(四)  慰藉料 金一二〇万円

前認定の諸事実によれば、後遺症(一二級)分として金三十一万円を含めて、治療の経過からみて金一二〇万円の精神的損害を認めるのを相当とする。

(五)  治療費等 金四六万八一一二円

〔証拠略〕によれば、本件事故による原告の入通院にかかつた治療費及び附添人の寝具代として右の金額を必要としたこと、これは被告会社で全額既弁済であることが認められる。従つて、本訴請求外であるけれども過失相殺する前提として総損害を算出するために、ここに認定した。

(六)  休業(日給)損害 金三八万二七五四円

〔証拠略〕によれば、原告は名塚組から事故前三カ月の収入として金十一万二九四四円を得ていたこと、本事故のため昭和四二年一〇月三十一日以降昭和四五年八月三十一日までの三〇五日間の日給相当額を名塚組から得られなかつたことが認められる。これによれば、金三八万二七五四円と認めるのを相当とする。この休業損害についても本訴請求外であるけれども、過失相殺する前提の総損害額を算出するために、ここに認定する。

112,944円×1/90×305日=382,754円

(七)  損害の填補 金一六二万円

〔証拠略〕によれば、被告主張の抗弁(二)(損害の填補)のとおり合計金一六二万円の填補を受けていることが認められる。

(八)  差引計算 残金九一万六六九二円

右(一)から(六)までの損害総額が金三一七万〇八六六円となるところ、過失相殺した残りの八割相当額は金二五三万六六九二円となり、これから右填補金一六二万円を控除すると残金九一万六六九二円となる。

四  (結論)

よつて被告両名に対し金九一万六六九二円及びこれにつき訴状送達の翌日たる昭和四五年十一月七日(この点は当裁判所に顕著である)以降右完済に至るまで民法所定の年五分の割合による遅延損害金の支払を求める限度で認容し、その余を失当として棄却し、民事訴訟法九二条、九三条、一九六条を適用して主文のとおり判決する。

(裁判官 龍前三郎)

見取図

<省略>

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